職人の語るうんちく
材料についてのうんちく
うるしの話・・・うるしをころす? うるしがかぜをひく?
るしというのは、皆様もご存知のように漆の木から採取されます。
このうるしは天然素材の塗料として数千年以上前から使われている最古の塗料や接着剤として知られています。
うるしの特徴
しかし、このうるしは扱いが非常に難しく、うるし塗りを極めることは困難であるといわれています。
まず、うるしの特徴としてかぶれやすいということが挙げられます。
私は、比較的かぶれにくく梅雨の時期に若干、ひじの内側にかぶれを生じることがありますが、かぶれる人はてきめんにかぶれます。
赤い発疹ができ、かゆみが持続する辛さは文面では伝えられません。
うるしを乾かすには・・・
次に、乾かすのにいくつかの条件が必要であることがあげられます。
製造工程でもお伝えしましたが、うるしは自然乾燥しません。うるしの中の「ウルシオール」というふざけた名前の成分の中にある酵素と、空気中の水分が結合し化学変化をおこして硬化を始めます。
うるしは表面から硬化を始めるので、あまりに早く乾かそうとして湿気をたくさん与えすぎると、表面だけ乾き中は乾いていない状態になります。
こうなったら最後、中が乾くにつれ表面が波を打った状態になります。いわゆる「ちぢみ」というやつです。
そんなときどうすんの・・・
こうなったらもうなす術ありません。ちぢんだ生乾きのうるしを剥ぎ取り、また最初から塗らなければなりません。
ものすごい時間と労力の無駄です。
こうならないために、うるしはその時期にあった「調合」をしなくてはなりません。
調合ってどうすんの・・・
「調合」は、まず、うるしの乾くスピードと粘りを調節しなければなりません。
粘りも関係あるの?・・あります。
うるしは暑い時期にはやわらかく、寒い時期には硬くなる性質があります。塗りやすい粘りにすることは、漆を塗る上で非常に重要です。
ではどうやって?・・うるしをブレンドするのです。
湿度が高く、暖かい梅雨の時期には、極力乾きが遅く粘りが固い「遅口・堅口うるし」を塗り、
空気が乾燥して寒い冬の時期には、極力乾きが早く粘りがやわらかい「早口・汁口うるし」を塗ります。
春先や秋口にはそれらのうるしを混ぜその時期にあったうるしに「調合」します。これらは経験と勘でやります。
塗るだけでいいんでしょ・・・
うるしをきれいに塗った後は、ごみや埃を拾っていきます。竹串の先端を尖らせた道具を使って丁寧にひとつづつ取っていきます。乾燥の途中でも一定の時間おきに観察しほこりが付いていないか気をつかいます。
夏の時期とかは、小さな虫がうるしのにおいに誘われて塗り面に付着したりして、そのまま乾いていたりします。
そのような時は、完全に乾かしたあときれいに砥いで、また塗り直しです。
室(ムロ)と呼ばれる乾燥室から塗ったものを出すときは、非常に緊張する一瞬です。陶芸家が窯から作品を出すときと似通った感覚かもしれません。
きれいに塗れた時は至福の喜びですが、ごみや虫が付着していた時・・・その時は、意識がどこかに飛んでいってしまいます。
うるしは生きている・・・
「うるしは生きている」とよく耳にします。
それは、昔から塗師たちが上記のように季節ごとに最良のうるしに「調合」して、うるしと対話して塗っていたからではないかと思われます。
また、うるしの塗り面は「酸性」や「アルカリ性」に侵される事なく、塗りあがった時の光沢を持続し続けるということもあるかもしれません。
昔から、塗師の間では、
うるしが乾かぬことを「うるしが風邪をひく。」といい、
うるしを煮やして乾きを遅くすることを「うるしをころす。」と言っていました。
「うるしは生きている。」という認識のためにこのような表現になったのかも知れません。
わたしたちのこだわり・・・
うるしを完全に征服することは、一生かかっても無理かもしれません。
しかし、家族の心の拠り所であり、敬いの気持ちの象徴である仏壇に、そのような手間隙かけて
うるしを塗ることこそ、我々のこだわりなのかもしれません。